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約10年、法人営業担当者として仕事をしてきて、ようやく仕事の進め方を体系的に理解できてきました。
先に全体像を書きます。法人営業の仕事の進め方は、次の6ステップです。
- 法人営業担当者の役割を理解する
- 担当顧客の特徴を理解する
- 中長期の戦略シナリオを書く
- シナリオを根回しする
- 目先の仕事に対する戦術を描く
- 目先の仕事に対応しつつ、中長期戦略の実現を進める
ポイントは1つだけです。中長期の戦略と、目先の戦術を分けて考えること。
この2つが混ざると、日々の仕事に忙殺されて、気づけば「忙しいのに成果が出ない担当者」になります。逆に、分けて考えられるようになると、目先の仕事の1つ1つが、戦略を前に進める材料に変わります。
順番に説明します。
ステップ1: 法人営業担当者の役割を理解する
まず、勤めている会社が、法人営業担当者を配置している役割について考えましょう。
既存顧客や新規開拓のポジションに、会社がわざわざ「担当者」を付けているのは、当然ながら、その仕事が会社の発展に重要だから、です。
具体的には、自分の担当を数字で把握することから始めます。
- 担当顧客による売上が、自社の業績に与える影響はどれくらいか
- 新規開拓顧客が、業績に占める割合はどれくらいか
これを、向こう数年間にもたらされる売上高や利益という数字と、自社の合計業績に対する割合で考えます。
例えば「自分の担当は会社の売上の○%、粗利の○%を担っている」と言えるかどうか。言えないなら、まずそこからです。自分の仕事の重さが分からないままでは、後のステップで考える戦略の解像度も上がりません。
ステップ2: 担当顧客の特徴を理解する
次に、担当する顧客企業の特徴を理解します。見るべきは、次の3つです。
- 契約までの意思決定プロセス
- その企業が目指す未来
- 目指す未来を実現するための現状課題
担当顧客(場合により、業界であることも)の特徴を理解できるよう、担当顧客の現場や経営層とのコミュニケーションにおいて、普段から意識します。
「意識します」だけでは曖昧なので、私が普段の会話で実際に確認していることを書いておきます。
- 意思決定プロセス: 「この件は、最終的にどなたが決めるのですか」「稟議はどの会議を通りますか」「予算はどの時期に確定しますか」
- 目指す未来: 「今期、部門として一番のテーマは何ですか」「3年後、御社はどうなっていたいですか」
- 現状課題: 「いま一番困っていることは何ですか」「それが解決しないと、何が止まりますか」
商談の場でいきなり聞くのではなく、普段の雑談や定例の場で少しずつ集めるのがコツです。顧客の担当者も、自分の会社の未来や課題を聞かれて嫌がる人は少ないと思います。
顧客の課題の背景にある「潜在ニーズ」の掴み方については、こちらの記事に詳しく書いています。
ステップ3: 中長期の戦略シナリオを書く
顧客の特徴が見えてきたら、次は中長期の戦略シナリオを書きます。
考え方は、2つを結び付けることです。
- 担当顧客の課題を解決し、目指す未来の実現に対して、自社が貢献できること
- それによって生まれるビジネス(案件や売上等の成果)が、自社の目指す未来にどう貢献するか
その上で、それらのビジネスをできるだけ早いペースでこなしていくために必要なものを、戦略として立案します。シナリオに含める要素は、次の4つです。
- 顧客との関係の構築(誰と、どの深さの関係が必要か)
- 必要な契約(いつまでに、どんな形の契約が必要か)
- 自社の必要リソース(人員・仕入先・体制)
- これらを通して、自分自身は自社でどのようなポジションになりたいか
頭の中だけで考えるのではなく、1枚でもいいので書き出すことをおすすめします。書くと、足りないピースが見えます。
なお、この中長期戦略は、内容によって自社や担当顧客と共有すべきものもあれば、担当営業の心の中で密かに思い描くだけに留めるべきもの、に分けます。全部をオープンにすればよい、というものではありません。
ステップ4: シナリオを根回しする
戦略シナリオは、書いただけでは実現しません。その通りに実現するために必要な準備、つまり根回しを進めます。
必要なのは、大きく2種類です。
- キャスティング: 自社の仕入先との関係作り、自社内の人員体制の確立など
- 事前合意: 自身の担当顧客についての中長期戦略を、自社の経営層や生産部署と合意しておくこと
順番も大事です。私の場合は、
- まず直属の上司にシナリオを共有し、方向性の合意を取る
- 次に関係する生産部署・技術側に「将来こういう案件が来る可能性がある」と伝えておく
- その上で仕入先など社外の協力先に、関係作りを始める
- 最後に、顧客側のキーマンに少しずつ話を通していく
いきなり大きな話を持ち出すのではなく、「将来の話」として小さく種をまいておく。実際に案件が動く段階になってから慌てて人を集めようとしても、遅いのです。
伝える内容も、最初から全部である必要はありません。「担当顧客がこういう方向を目指していて、将来こういう仕事が生まれそうだ。その時は力を貸してほしい」くらいの粒度で十分です。大事なのは、関係者に「その話は聞いていた」と言ってもらえる状態を作っておくことです。根回しとは、決まったことを事後報告することではなく、決まる前に当事者の意識の中に入れておく作業だと思っています。
ステップ5: 目先の仕事に対する戦術を描く
根本的には、中長期戦略が、担当顧客と自社の双方にとって重要です。
ですが、担当顧客も自社も、日々の業務においては、双方の経営層がそれぞれ、目指す未来に辿り着くための様々な仕事を、現場部門へ指示しています。顧客の現場部門や担当営業としては、当然それらの仕事をこなさなければなりません。
ここで中長期戦略を意識して、それらの仕事をどうこなすか戦術が無いと、忙殺されてしまいます。
目先の仕事は、玉石混交です。私は次の3つに分けて判断しています。
- 自社で受けるべき仕事: 戦略に直結するもの、自社の強みが活きて適正な利益が見込めるもの
- 他社へ紹介するに留める仕事: 顧客との関係維持には必要だが、自社で受ける必然性が薄いもの
- 断るべき仕事: 戦略にも利益にも繋がらず、リソースだけを食うもの
判断に迷ったら、「これはステップ3のシナリオを前に進めるか」で考えます。進めない仕事は、基本的に受けないか、留めるかです。
「何をしないか」を決める重要性については、こちらの記事にも書いています。
→ 法人営業は『何をしないか』をまず決める。避けるべき仕事の見極め方
ステップ6: 目先の仕事に対応しつつ、中長期戦略の実現を進める
最後に、目先の仕事を戦術を立ててこなしつつ、中長期戦略の実現を推進する。これが担当営業の役割だと思っています。
言葉にすると簡単ですが、実務でいちばん難しいのがここです。目先の仕事は締切と催促で勝手に入ってきますが、戦略側の仕事は誰も催促してくれません。放っておくと、戦略の時間は必ずゼロになります。
なので私は、時間の使い方に物理的な仕組みを入れています。
- 週の初めに、まず「戦略を進める時間」をカレンダーに先に押さえる(後から入れようとすると、必ず目先の仕事で埋まります)
- 目先の仕事は、その残りの時間でこなす前提で、受ける・受けないの判断をする
- 週の終わりに、戦略側がどれだけ進んだかを振り返る。進んでいなければ、翌週の押さえる時間を増やす
「時間ができたら戦略を考える」は、永遠に来ません。先に押さえる。これだけです。
よくある失敗パターン
最後に、この6ステップが崩れる典型的なパターンを2つ書いておきます。
1つ目は、戦略ばかり語って目先の仕事を疎かにするパターンです。中長期の話は格好いいですが、顧客との信頼は目先の仕事の積み重ねでしか作れません。目先で信用を失えば、戦略の話を聞いてもらえる土台そのものが無くなります。
2つ目は、逆に目先の仕事だけで手一杯になるパターンです。これはステップ5と6が抜けている状態で、「忙しい=頑張っている」という錯覚に陥りがちです。忙しさと成果は、比例しません。
戦略と戦術は、どちらかではなく両方です。目先で信頼を作り、その信頼を使って戦略を進める。この循環が回り始めた時、担当営業の仕事は面白くなります。
まとめ
法人営業の仕事の進め方は、次の6ステップです。
- 役割を数字で理解する
- 担当顧客の特徴(意思決定プロセス・目指す未来・現状課題)を掴む
- 中長期の戦略シナリオを書き出す
- 根回しで実現の準備を進める
- 目先の仕事は「受ける/紹介に留める/断る」で戦術を描く
- 戦略の時間を先に押さえて、両方を回し続ける
要は、中長期の戦略と目先の戦術を分けて考え、両方を回し続けることです。
営業の基本そのものについては、こちらの記事もどうぞ。
→ 法人営業は誰でもできる。必要なのは才能ではなく『地道な3つの基本』だった
筆者プロフィールはこちら。
→ プロフィール
この記事のテーマを深める本
『イシューからはじめよ』(安宅和人)
「解くべき問題は、本当にそれか」を問い直す本です。目の前の課題をそのまま受け取るのではなく、イシュー度の高い問題を見極めてから動く。この視点は、この記事のステップ3「中長期の戦略シナリオ」を考える土台になります。
『正解が見えない課題を圧倒的に解決する超仮説思考』(高野研一)
答えの見えない課題に対して、仮説を立てて検証していく考え方を説いた本です。知識を集めるより、まず実践して確かめる姿勢が強調されています。シナリオを描いて根回しを進める進め方と相性の良い1冊です。


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